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“俺たちは裁かれない。誰にも俺たちは裁けない”
「ねぇ、桜火。桜火は永遠の愛を信じる?」
この言葉は次の任務で訪れた街で知り合った人が言ったこと。 男の人だけど、優しく笑う綺麗な人だ。 俺はその人がすごく好きになった。 花の様にすごく綺麗。
「俺はもうすぐ死んでしまうけど。愛はずっと生き続けると思うんだ」 「死んでしまう…?」 「そう。だけど悲しくなんてないよ」 「悲しくないの?どうして?俺ならきっと、悲しいのに…」 「悲しくない。自分たちが選んだ道だから」
また綺麗に笑う。 何でそんなに幸せそうなんだろう…。
「桜火は?」 「え?」 「桜火は居ないの?そうゆう人」 「…居るよ」 「ホントに?」 「うん。お義父さんとか、一緒に仕事してる人とか」 「クス。可愛いなぁ」 「?」 「それも確かに愛だけど、俺の持ってる愛とは違うみたい」
違う?
「桜火もきっと分かるよ。誰かを愛することが幸せなことだって」 「…幸せな、こと…」 「うん。多分桜火とこうして話すのは今日が最後になると思うけど…」 「最後?」 「そう。でも悲しむ必要は無いんだよ?俺は幸せだから桜火には喜んで欲しいな」 「でも会えないのは…寂しい」 「そうだね。俺も寂しい。それでもね、やっぱり愛しい人と最後まで一緒なのはこの上ない幸せなんだ」
分かるようで、分からない想い。 俺は多分、柊を好きで…多分柊より好きな人は居ないんだと思う。 火音様も好きだけど、柊のそれとは違う気がするんだ。 だけど本国で同性愛は死罪。 普通なら変化すれば済むことなんだけど、俺の場合は違う。 俺は変わってて、性の変化が出来ないんだ。 だから尚更俺は醜い。 異種なんだ。 それに柊はもう変化出来ないって言ってた。 そうすると、この先にあるのは罪しかない。 想いが叶ったとしても(有り得ない話なんだけどね) 俺が柊に与えられるのは、罪しかないんだ。
「…もう行かなきゃ。呼んでる」 「呼んでる…?」 「聞こえるんだ。俺の事を呼ぶ声。すごく優しい声が」
そう言うとその人は立ち上がって行ってしまう。 その後姿はとても綺麗で幸せそう。
…少し羨ましく思えた。
「…永久(トワ)」
永久が言ってた言葉。
“自分たちが選んだ道”
その意味はまだ良く分からないけど。 永久の行く先には、きっと望んだものがあるんだと思えた。
*************
「…あんた誰」
桜火は連れて来なかった。
「本国からの命令でお前たちを捕獲する。大人しくすれば危害は加えない」
きっと泣くだろうと思ったから。
「…天の犬か」 「もう一人はどこだ」 「あんたには教えないよ」 「…黙れ」 「黙らない。あんたは分かってないからね」
…不愉快だ。 俺が何を分かってないという。
「ほら。何も分かってない。そんな顔してる」 「うるさいっ」 「…うるさいのはあんただよ」 「っ…!」
何なんだ、コイツは。 さっきから頭にくるような事ばかり言って。 自分の立場が分かってるのか!?
「俺たちは誰の指図も受けない。それがあんただろうと神だろうと同じだ」 「…ふざけた事を。神は死んだ。お前たちを裁くのは俺たちだ」 「それはどうかな」 「永久」
突然現れたもう一人。 二人は寄り添うようにして立っている。
「桜火とはもういいの?」 「うん。ちゃんとサヨナラしてきたから」 「!」
…やっぱり最近桜火と接していたのはこいつだったのか。 桜火を連れて来なかったのは正解だったが、今夜も会っていたとは思わなかった。
「あなたでしょ?桜火と一緒に仕事してる人って」 「……それがどうした」 「桜火は探してる二人の片割れが俺だとは気付いてなかったみたいだけど、俺は気付いてた」 「…気付いていたなら何故逃げない」 「今逃げ切っても、きっと追っ手は諦めないと思って」 「それは素直に本国へと戻るという事か?」 「残念だけど、それは違う」
月明かりの下。 二人は何も恐れるものは無いかのように笑う。 …どこか気持ち悪さを覚えた。
「永久は桜火を選んだんだ」 「選んだ?どういう意味だ」 「永久はこの先見知らぬ誰かに追われるくらいなら、桜火にって思ったらしい」 「そう。でも桜火は俺たちを捕まえるには優しすぎる」 「永久と桜火は触れ合いすぎた」
…確かに桜火はこの永久という奴の話を楽しそうにしていた。 愛着を持ってしまっていた。 桜火ならこの二人を逃がしてしまうんじゃないか。 そんな不安が俺にはあった。 それが桜火を連れて来なかった理由の一部でもある。
「だからね、あなたにならいいかなって」 「………それが大人しく捕まるという事と、どう違うんだ」 「俺たちの最後を見てもらう」 「桜火は泣いちゃうだろうからね。でもあなたなら大丈夫そう」 「それはエゴだ!お前たちは自分のことしか考えていないっ!そもそもお前たちの片方が変化をすればこんな事にはならなかったはずだ!」 「それじゃダメなんだよ。それじゃ俺たちは俺たちじゃなくなる」 「俺たちはこのままの姿で愛し合った。変わってしまったなら、それは俺たちじゃない」 「その所為で死が与えられるとしてもか!?」 「死なんて恐くない」 「あなたには分からない。死は終わりじゃないんだ」
頭が痛い。 イライラする。
「だけど与えられるものが死だとしたら、俺たちは自らの手で死を迎えるだけ」 「!」
自害する、ということなのか…?
「確かにあんたが言う様に、これはエゴだ」 「桜火はこの事を知ったら泣いてしまう。これは俺たちのエゴの所為」 「だけど俺たちはそれでもこうする事を選んだんだ」 「桜火を悲しませるのは俺も悲しいけれど…」
分からない。 俺には、分からない。
「悲しいからあなたは桜火を連れて来なかった。それもエゴだって、分かってる?」 「っ!」 「桜火も優しいけど、あなたも優しいんだね」 「違うっ!…俺は、優しくなんか…っ」 「優しいよ。俺たちのエゴとは違って、守るエゴだ」 「守る…?」 「そうだ。俺たちは桜火を…誰かを傷つけるエゴしかもう持てない。その点では偉いよあんた」 「……」
俺が優しい? 守るエゴ?
…分からない。 考えたくない…。
「あなたは恐れてる」
恐れてる?
「誰かを愛する事を」
この俺が?
「その意味を知る事を」
意味…だと…?
「そして俺たちを」
愛する事。 意味を知る事。
昔俺が信じてた、想い。
俺が無くしたもの。
「あんたには愛しい人が居るか?」 「…お前たちに言う義務はない…」
そんなもの…。 とうの昔に無くした。
「愛しい人と離れ離れになる苦しみ。あんたにはそれが分からないかもしれない」
分かる。 分かるさ。
俺はその愛を無くしたんだから。
「俺たちはもう苦しみたくない」 「だからこの道を選んだんだ」
馬鹿だ。
「その先に、悲しみはない」
こいつら二人…救いようのない馬鹿だ。
「だから」
…馬鹿だ。
「幸せなんだ」
馬鹿だ。
愛を語るこいつらも。
その二人を恐れる俺も。
「何で!?どうして言ってくれなかったの!?」 「………」
案の定、桜火は泣いてしまった。
ポロポロと涙を流して、とても悲しそうに。
「何で永久が…っ」
結局俺が泣かせまいとしてした行動も、全く意味がなかった。 あの二人が自害したことなんて、よく考えればすぐに耳に入る話だったんだ。
「今日で最後って…そんな意味だなんて…っ…分からなかった…っ」 「……俺だって分からなかった」
あいつらが語った愛の意味を。 もう俺には遠すぎる存在で、忘れてしまった。
「…永久…っ」
ポロポロ。ポロポロ。 その涙は綺麗過ぎる。
引き込まれそうだ。
「………もう泣くな」
お前の涙って、舐めたら甘そうだな…。
「…泣くんじゃない…」
指で拭き取った涙。 思わず舐めそうになったけど止めておいた。
「…………泣かないでくれ…」
俺まで泣いてしまいそうだから。
「桜火。あの二人の名前知ってるか?」 「…永久だけしか知らない」 「もう片方の名前、亜衣っていうらしい」 「あ…い?」 「字は違うけど、地上での“愛”と同じ発音だ」
***結果報告***
罪人、亜衣及び永久捕獲任務。 両者自害により、中止。
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